香港の競馬
お待たせしました。香港をアジアからあえて外した理由の解説に入ります。
【統括団体】HKJC(Hong Kong Jockey Club)
【年間売上】約2兆3800億円
【レース形態】平地(芝)
【競馬場】沙田(シャティン)、ハッピーバレー
【開催期間】毎年9月〜7月上旬
【三冠】
・クラシック三冠…香港クラシックマイル、香港クラシックカップ、香港ダービー(全て国内重賞)
・香港トリプルクラウン(古馬三冠)…香港スチュワーズカップ、香港ゴールドカップ、香港チャンピオンズ&チャターカップ
・チャンピオンスプリント(短距離三冠)…センテナリースプリントカップ、チェアマンズスプリントプライズ、クイーンズシルヴァージュビリーカップ
【名物イベント】香港国際競走、香港チャンピオンズデー
◆国際競走デー開催…香港カップ、香港マイル、香港スプリント、香港ヴァーズ
◆チャンピオンズデー開催…クイーンエリザベス2世カップ、チャンピオンズマイル、チェアマンズスプリントプライズ
日本のJRAの運営がすごいって話をしましたが、HKJCも負けてません。
香港の騎手、調教師は世界から選りすぐりで集められた精鋭ばかり。香港を代表するジョアンモレイラ騎手はブラジル、ザックパートン騎手はオーストラリア出身。
世界各地からハイレベルなホースマンが集まっているので、自ずとレースレベルも高くなります。下手な騎手はまずいません。
滅多に事故も起こさないよう水際対策もしっかりしてましたが、香港スプリントで落馬事故が起こってからは更に対策を強化。普段から足捌きが硬かった日本馬サリオスがどれだけ説得しても検疫で弾かれGIに出られなかったくらいには徹底してます。
日本以上に海外レースも多数販売しており、しかも香港の競馬ファンはめちゃくちゃ馬券買うのですごい儲けてます。その儲けをレース賞金増額に使った結果、香港カップの1着賞金が3億5000万になりました。1.75大阪杯です。
日本にとって最も馴染み深い国外競馬場が香港の沙田競馬場。理由は単純、日本の馬が毎年ここでGIを勝ってるからです。
香港は、スプリント、マイル、中距離でそれぞれのチャンピオンを決める春のGI総決算、香港チャンピオンズデーと、世界各国から名馬が招待され最強を競う冬の陣、香港国際競走があるのですが、そこで開催されるGIの7レース中6レースを日本馬が制覇しており、うち4レースは過去10年間で3勝しています。
香港現地民も「香港GIは日本馬のボーナスステージ」と諦観しているとかいないとか。
でも香港馬もめちゃくちゃ強いです。
主に短距離が鬼のように強いです。
現役馬なら2021年香港マイルにて16連勝という世紀の大記録を達成したゴールデンシックスティ(金鎗六十)。なお次のレースで負けてしまったためゴールデンシックスティーン止まりでした。
動画は2歳歳下のカリフォルニアスパングル(加州星球)に香港マイルで負かされたリベンジを果たし、GI7勝目を挙げた2023香港スチュワーズC。香港はGIの絶対数が少ないので、このGI7勝は数字以上の価値があります。GIでは無いですが香港クラシック三冠も達成していますし、その地位は不動のものです。
そしてこれが香港スプリントにて並み居る日本馬を差し置いてGI4勝目を挙げたウェリントン(福逸)の走り。
香港スプリントはレシステンシアやナランフレグといった日本のGI馬があっさり沈むほど厳しいレース。
過去に香港のスプリントGIで勝てた日本馬は顕彰馬ロードカナロアとその産駒ダノンスマッシュのみ。カナロアとその産駒は長くいい脚を使える持続力があるので、直線の長い沙田ではそこが有利に働いたのでしょう。(知らんけど)
もっとも、そのダノンスマッシュが大本命だったクイーンズシルバージュビリーCでGI初制覇したのがウェリントンなんですが。
そしてここ数年の香港競馬で最も高い評価を得ているのがこのビューティージェネレーション(美麗傳承)。
香港マイルで日本馬ヴィブロスを3馬身突き放し圧勝、香港馬史上最高レートの127の評価を獲得。その後も香港馬史上最多の国際GI8勝を記録しました。
個人的にはレーティング127以上は歴史に名を残す名馬だと思っているので、ビューティーは言うまでもないです。イクイノックス、トウカイテイオーが126、オルフェーヴルが129っていうとどれくらい凄いことか理解できるはず。なおフライトラインは140です
既に3頭紹介しました通り、短距離においては他国のGIを食い荒らせるくらいの強さを秘めているのが香港馬です。
でも!!!!香港の競走馬は!!!!どれだけ勝っても!!!!種牡馬にはなれないんです!!!!
ここが香港競馬の惜しいところで、香港は馬産はやらないからって理由で手当り次第に競走馬を去勢させていくんですね。そして牝馬もほとんど輸入しません。
なので、香港の英雄たちのほとんどはみんな栄光と引き換えに大事なものを失ってます。
種牡馬、繁殖牝馬あっての競馬だと思ってる筆者としては、「なんとかして引退後にオーストラリアとか日本で繋養する契約結べないのん…?」と思っちゃいます。ゴールデンシックスティとか種牡馬になったらめっちゃ人気出ると思うんだけどな…(去勢済)(でも牝馬に興味津々)
最近の香港競馬は変わり始めてきています。
香港馬ロマンティックウォリアーが、中距離で日本馬を相手に圧勝しました。香港カップとQE2世Cは日本馬のためのレース的な認識があった我々からすると衝撃でした。
香港馬は99%去勢してるのでホルモンバランス的にも繁殖に上がれないという意味でもロングランが期待できます。今後中距離GI制覇を狙う日本馬は、香港遠征したらロマンティックウォリアーという壁に立ち向かわないといけないのです。しかもこいつマイルでも強いし。(↑の23スチュワーズCでしれっと2着)なかなか厳しい時代になりました。
そんな感じで盛り上がってる香港競馬ですが、香港からほど近いマカオもパートII国。今後に期待したいですね。
オセアニアの競馬
様々な国を紹介してきましたが、競馬という文化に対する熱量と愛ならここが世界一だと思います。
GIの数がめちゃくちゃ多いです。
オーストラリア
【統括団体】RA(Racing Australia)
【レース形態】平地(芝)・速歩
【主な競馬場】シドニー…ロイヤルランドウィック、ローズヒルガーデンズ、ウォーウィックファーム、カンタベリーパーク
メルボルン…フレミントン、コーフィールド、ムーニーバレー、サンダウン
ブリスベン(クイーンズランド)…イーグルファーム、ドゥームベン
アデレード(南オーストラリア)…モーフェットビル
パース(西オーストラリア)…アスコット、ベルモントパーク
ニューサウスウェールズ…ニューカッスル
タスマニア…モーブレー
【三冠】牡…ランドウィックギニーズ、ローズヒルギニー、オーストラリアンダービー
【2歳三冠】ゴールデンスリッパーS、サイアーズプロデュースS、シャンペンS
【クラシック】コーフィールドギニー、ヴィクトリアダービー、1000ギニー、クラウンオークス、オーストラリアンオークス
【主なGI】メルボルンC、コックスプレート、コーフィールドC、クイーンエリザベスS、ドンカスターマイル、TJスミスS、マッキノンS、スプリントクラシック、シドニーC
【非GIの大レース】ジ・エベレスト、ザ・ゴールデンイーグル、ジ・オールスターマイル
欧州やアメリカ、ドバイと並ぶ格の高いレースが存在するオーストラリア。
中でも有名なレースがコックスプレート、コーフィールドカップ、メルボルンカップの3つです。
これはGI25連勝、生涯獲得賞金約21億2400万円のレジェンドホース、ウィンクスが四連覇を達成した2018年のコックスプレート。
スケールがデカすぎてよく分かりませんが、現代において1番GI勝ってて、1番賞金もらってて、1番GI連覇してるのがウィンクスです。
ちなみに主戦はシュヴァルグランでJCを勝ったヒュー・ボウマン騎手です。
コックスプレートが行われるムーニーバレー競馬場は直線があの中山より圧倒的に短く(中山は310m、こっちはたったの173m)、ウィンクスのような追込馬にはあまり向いてないコースのはずなんですけど…4連覇してますね。
そしてこれが2021年の1年間で9連勝、GIを3連勝したインセンティヴァイズのコーフィールドカップです。
コーフィールドはハンデ戦で、過去にGIを勝ってれば勝ってるほど負担重量が重くなるので不利です。もちろんトップハンデを背負っての出走だったのですが、ご覧の通りの快勝っぷり。
これからのオーストラリアのヒーローはインセンティヴァイズだと決まったようなものでした。
もう1つのレース、メルボルンカップは国内だけでなく世界のホースマンの憧れで、毎年世界各国から馬が集まってきます。それはもう凱旋門賞みたいに。
“The Race that Stops a Nation”(国の動きを止めるレース)と云われる通り、開催地のフレミントン競馬場があるビクトリア州ではメルボルンカップの日は市民の祝日となります。
こういうところも熱量の高さですね。
3000m以上のレースでここまで世界的に高く評価されてるレースはメルボルンCと天皇賞(春)と菊花賞だけだと思います。長距離レースは見てて楽しいですよね。
これが2021年、10連勝のかかるインセンティヴァイズを破りGI10勝目を挙げ、この勝利で1400、1600、2000、2400、3200mのGI制覇を達成した怪物ベリーエレガントのメルボルンカップです。
意味不明すぎて頭抱えますよ。
なんでこんな化け物ばかりが軒を連ねているのか分析してみたんですが、多分豪州の競馬は上位層と下位層の差が日本よりかなり激しいんだと思います。
トーセンスターダムとブレイブスマッシュという馬がいます。どっちもGIIIしか勝ててない日本馬だったんですけど、豪移籍後にGIを2勝してます。
とはいえ、ウィンクスのような歴史的名馬が間違いなく強いことはソーユーシンクが証明しています。豪でGIを4連勝した本馬はクールモアにトレードされアイルランドに移籍し、さっき紹介した愛チャンピオンSを含むGIを更に5勝して引退しました。強い馬は強いのです。
オセアニア産馬の特徴は、短距離で鬼のように強いこと。
これは当時GI11連勝中だったブラックキャビアが海外に初遠征し、フランスの地で見事に12連勝目を飾ったダイヤモンドジュビリーS。
なお、この次のレースは母国に戻ってライトニングS…のはずが、本馬が凄すぎるのでレース名がブラックキャビアライトニングに変更されました。(ここでもちゃんと勝ってるし、ライトニングSから合わせて3連覇です)
そしてこちらがGI8勝、豪州獲得賞金歴代2位(たぶん日本円で18億円くらい)のネイチャーストリップが制覇した世界最高賞金額芝レース、ジ・エベレストの映像です。
1着賞金は日本円で約5億6000万。たった1分で14億の大金が動いてます。(なんて大金だ…と思ったかもしれませんが、2023年から有馬記念とJCも1着5億円です)
この馬も欧州スプリントGIを4馬身半差で楽勝してます。
他にも日本のスプリンターズSを制覇したテイクオーバーターゲットなど、活躍馬を挙げ出すと枚挙に暇がありません。
さて、ここからがネタばらし。
先ほど香港馬が短距離で鬼のように強いと書きました。
香港馬が短距離で強いのは、主にオセアニアの生産馬を輸入して戦わせてるからだったのです。
同じくオセアニアの馬を輸入してるシンガポールでもドバイゴールデンシャヒーン勝ち馬ロケットマンなどがいますし、オセアニア産馬の実力は底知れぬものがあります。
余談ですが、実は日本の短距離馬もオーストラリアで高い評価を受けてます。アロースタッドという種牡馬繋養牧場が日本の馬を高く評価しており、かれこれ20年くらい前から日本の馬を“シャトル種牡馬”として繋養しています。(馬には種付けシーズンみたいなものがあるけど、南半球と北半球は季節が違うので2回種牡馬活動できる)
既にフジキセキ、モーリス、ロードカナロアがシャトルで豪州産GI馬を輩出しています。
現役のモーリス産駒マズは既にGIを勝利し、ここまで15戦7勝、ジ・エベレスト3着とまずまずな戦績。マズだけに
ここ数年でアドマイヤマーズ、ミッキーアイル、リアルスティールもオーストラリアで種付けしてるので、産駒の活躍が期待されます。
ニュージーランド
【統括団体】NZTR(New Zealand Thoroughbred Racing)
【レース形態】平地(芝)・障害・速歩
【競馬場】トレンサム・エラズリー・リカルトンパーク・ヘイスティングスなど
【三冠】古馬三冠…チャレンジステークス、ウィンザーパークプレート、スプリングクラシック
【クラシック】2000ギニー、ダービー、1000ギニー、オークス
【その他GI】ニュージーランドS、ザビールクラシック、ソーンドンマイル、ワイカトスプリント
障害と繋駕速歩競走が人気なところ以外は基本的にプチオーストラリアみたいな感じです。アメリカとカナダみたいな関係ですね。
JCでオグリを倒した名牝ホーリックスや、コックスプレート連覇&香港年度代表馬を倒したGI13勝の名牝サンラインが伝説として語り継がれてますが、直近で彼女らに並ぶ名牝はこの子。
NZ調教馬として初めてGIを14勝し、史上唯一ニュージーランドトリプルクラウン(日本でいう古馬三冠)を達成した馬、メロディベル。この三冠は1400〜2040mのGIを3連勝しないといけないので相当キツいんですが、彼女はやってのけました。
オーストラリア遠征でもGI勝利を果たした、記憶に残る名牝です。
ニュージーランド競馬の特長は、日本との縁の深さでしょうか。
↑はレース賞金がダービーと同額の2歳リステッドレース、カラカミリオン。勝ち馬はサトノアラジン産駒トーキョータイクーン。さすがディープインパクト系って感じの末脚で追い込んでますね。見てて気持ちいいです。無敗のままGIIIも勝ったようで、そのうちGIにも手が届くでしょうね。
シンコウキング産駒とロックドゥカンブ産駒がダービー馬に、ジャングルポケット産駒がオークス馬になってたり、ゼンノロブロイやバブルガムフェローの子孫も走ってるのがニュージーランドです。日本人騎手もかなりいます。
南アフリカの競馬
【統括団体】NHA(National Horseracing Authority of Southern Africa)
【レース形態】平地(芝)
【競馬場】グレイヴィル、ケニルワース、ターフフォンテンなど
【三冠】牡…ハウテンギニー、南阿クラシック、南阿ダービー
牝…ハウテンフィリーズギニー、南阿フィリーズクラシック、南阿オークス
【主なGI】ダーバンジュライ、ケープタウンメット、サマーカップ、キングズプレートなど
アフリカはパートI国が南アフリカのみなのでここだけ解説します。
昔は三冠馬ホースチェスナットなどが活躍し、世界にもある程度の影響力がありました。中でも世界へ羽ばたいた日本に縁のある名馬がサンクラシーク。
アフリカで走った後ドバイに遠征し、そのままドバイシーマクラシックを制覇しました。
彼女はオーストラリア産馬。そしてフジキセキ産駒。
フジキセキがオーストラリアでシャトル種牡馬してる時に生まれた子がアフリカに渡り、ドバイで世界一に輝いたのです。
彼女をフジキセキの最高傑作と称える日本の競馬ファンも多いです。
サンクラシークのデコック調教師は他にもイピトンベやイググといったGI馬を多数育てており、イピトンベもドバイDFを勝っています。南アフリカのオブライエン的存在です。
主なGIレースとしてはダーバンジュライ、サマーカップ、ケープタウンメット(全て芝)などがありますが、立地の関係上日本や欧州との関わりが少なく、日本に馬が輸入される事も少ないのであまりピンときません。
↑は22年に牝馬スパークリングウォーターが制覇した7月の大レース、GIダーバンジュライハンデキャップ。
宝塚記念と同じ2200mのレースで、有馬記念のようなグランプリレース的な扱いを受けています。
写真の通りコーナーが急かつ多頭数だからか、最後の直線は馬がバラけて盛り上がりますね。昔の日本ダービーみたいな雰囲気。着差が付きにくいコース設定ですが、勝ち馬スパークリングウォーターは3馬身差で快勝していますね。
ちなみにこの馬は牝馬で、牝馬がダーバンジュライを勝つのはデコック調教師のイググ以来11年振り、今世紀2度目。もちろんこの馬もデコック調教師の管理馬です。デコック無双。
逆に言えばデコック師に刃向かえる海外志向のホースマンが不在なので、そういう人材が現れて南アフリカの現状を変えて欲しいですね。いつかサンクラシークみたいな名馬が海外を制す瞬間を見届けたいです。
まとめ
いかがだったでしょうか。詰め込めるだけの情報量を詰め込んでみたんですけど、まだ語り切れてません。特にアメリカはゼニヤッタとかゴーストザッパーとか(以下略)
なので海外の名馬だけを紹介する記事を書いたんですが、牝馬だけでものすごい文字数だったのでもうおしまいです。
これを読んだ方は海外競馬に興味を持ったはず。サウジカップやドバイワールドカップが目前に控えていますので、のんびり観戦してみましょう。日本馬を応援するもよし、外国馬に賭けるもよし。
3ヶ月に1回ペースで日本馬は海外遠征します。世界各国、どこも熱いレースばかりなのでおすすめです。
それではまた。
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