北米の競馬
欧州と並んで屈指の馬産地であり、日本との繋がりも深い北米の競馬。ここ無しに今の世界競馬は語れません。
アメリカ
【統括団体】NTRA(National Thoroughbred Racing Association)
【レース形態】平地(ダート・芝)・障害
【競馬場】東海岸…サラトガ、アケダクト、ベルモントパークピムリコ、ローレルパーク、モンマスパークなど
中央…キーンランド、ガルフストリームパーク、チャーチルダウンズ、フェアグラウンズ、オークローンパークなど
西海岸…サンタアニタパーク、ロスアラミトス、デルマーなど
【競走体系】
【三冠】牡…ケンタッキーダービー、プリークネスS、ベルモントS
ニューヨーク牝馬三冠…エイコーンS、CCAオークス、アラバマS
芝三冠…ベルモントダービー、サラトガダービー、ジョッキークラブダービー(GIII)
芝牝馬三冠…ベルモントオークス、サラトガオークス(GIII)、ジョッキークラブオークス(GIII)
【名物イベント】ブリーダーズカップ
BCクラシック、ディスタフ、ターフ、マイル、スプリント、フィリー&メアターフ、ダートマイル、ターフスプリント、フィリー&メアスプリント、ジュベナイルターフ、ジュベナイル、ジュベナイルフィリーズターフ、ジュベナイルフィリーズ、ジュベナイルスプリント
【主なGI(ダート)】ペガサスワールドカップ、サンタアニタH、ハリウッドGC、パシフィッククラシック、ウッドワードS、ジョッキークラブGC、メトロポリタンH
【主なGI(芝)】ペガサスWCターフ、マンハッタンS、ソードダンサーS
アメリカの競馬団体はレースの条件や日程を決める権利を持っておらず、立場が弱いです。
なのでアメリカは東海岸と西海岸で全然性質が違います。それのせいかレースが乱立してます。
州ごとにあるんじゃないかくらいダービーがありますし、平気で同日に違う場所でGIやったりします。
アメリカの特徴はなんといっても「ダート大国」な所にあります。とにかくダート至上主義。芝は下に見られがちです。
ダートレースが大半なので、芝も含め長距離レースが全くありません。長くて2400mです。
ブリーダーズカップ(以下BC)・ターフは2400mの芝最強馬決定戦ですが、基本的に欧州の馬が勝ちます。21年は1着クールモアのユビアー、2着クールモア&キーファーズのブルームでした。一方、ダートはほぼ地元馬が勝ちます。
数え切れないくらいGIだらけの国ですが、中でも最も格が高いレースが「BCクラシック」。
2日に分けてGIを14レース開催する超ビッグイベント、ブリーダーズカップのメインレースです。
見て頂ければ分かる通り、米国のダートはほぼ土です。レースもハイスピードで進んでいきます。
レースの勝ち馬はアロゲート。約19億円稼いで当時の世界歴代最高獲得賞金を手にした馬。
2着はカリフォルニアクローム。二冠馬です。
米国は三冠レースも日本や欧州と違いダートの三冠です。
ケンタッキーダービー、プリークネスS、ベルモントS。
中でもケンタッキーダービーは「スポーツの中で最も偉大な2分間」と称されるほどに人気なレースです。
スペシャルウィーク産駒クラウンプライドがルメールさんを乗せて前でレースを進めた22年ケンタッキーダービーを勝利したのはリッチストライク。他馬が出走回避してギリギリで滑り込んだ最低人気の馬が起こした奇跡。馬券は外れたけどいいもん見れましたね。(2着と4着のワイド持ってた)(いつもの負けパターン)
そんなケンタッキーダービー第115代優勝馬が、我らがサンデーサイレンス。アメリカのダートを先頭で駆け抜けるスピードが日本の芝コースに刺さった結果、今では日本のほとんどのGI馬の血統表にサンデーサイレンスの名が刻まれています。
そして三冠目のベルモントSといえば、この馬でお馴染みのレースです。
最強馬、セクレタリアト。
史上最大着差となる31馬身差で圧勝しました。
ダート2400mを2:24.00。芝か?
この時代はドーピングも何でもありだったのですが、それは他馬も同じだし、なんなら最近まで蔓延してました。
それでもこの時のレコードは破られていないどころか未だに世界レコードですし、彼は三冠全てでレコードを保持しています。格が違いすぎる。
ですがなんと2022年、そんな彼の再来とも言える馬が登場したのです。
それがこの馬、フライトライン。
↑はパシフィッククラシック。着差だけ見れば19と1/4馬身。レコードでもないです。
でもこれは2000mのレースで、19馬身突き放された2着の馬はこの年のドバイワールドC勝ち馬カントリーグラマーです。サウジCも2着になってます。
加えて言うと、このレースの2〜4着は前年のダート2000mハリウッドゴールドCというGIの1〜3着。彼らの走破タイムもその時とだいたい同じ。
なので、普通にカントリーグラマーたちがGIやってる3秒先で化物が単走してたってことになりますね。怖い。
フライトラインは6戦無敗で引退。
2着に付けた着差は合計71馬身。
セクレタリアトを超えたとも言われています。
カナダ
【統括団体】WEG(Woodbine Entertainment Group)
【レース形態】平地(芝・ダート・AW)
【競馬場】ウッドバイン、フォートエリー、ヘイスティングスなど
【三冠】牡…キングズプレート(AW)、プリンスオブウェールズS(ダート)、ブリーダーズS(芝)
牝…ウッドバインオークス(AW)、バイソンシティS(AW)、ワンダーウェアS(芝)
【主なGI】ウッドバインマイル、カナディアンインターナショナルS、E.P.テイラーS、ノーザンダンサーターフS
カナダは今でこそ日の目を見ないですが、競馬を語る上で絶対に外せない国の1つです。カナダが産んだ神馬ノーザンダンサーがいなければ世界の競馬は大きく変わっていました。
21世紀の日本のGI馬は8割ノーザンの血が入ってます。調べてないけどそれくらいの感覚です。
マルゼンスキーの父ニジンスキーもカナダ産。彼がいなければスペシャルウィークもデアリングタクトも生まれてません。
カナダ最大の特徴はクラシック三冠が狂ってること。
牡馬三冠がAW(日本だと調教コースで使われる合成樹脂)、ダート、芝。全部走れないと三冠不可能という鬼畜仕様。もちろんこうなってからは三冠馬は出てません。
↑はダービー的立ち位置のクイーンズプレート。こんな狂った三冠だからか国産馬限定の国内重賞になってます。
勝ち馬レキシールーは牝馬。後にアメリカのハリウッドダービーで二冠馬カリフォルニアクロームの2着と好走し、日本で繁殖入りしGI馬ダノンスコーピオンの母になりました。
三冠が外国馬出走不可とやや閉鎖的ではありますが、パートI国のまま現状維持できてるので国際GIレースは水準を保てているのでしょう。
ただ、大きなGIレースのうち2つが近年何度か開催休止してるのが不安。まともにやれてるのウッドバインマイルしかない。GII降格とかやめてね本当に。
南米の競馬
南米に関しては僕より数兆倍詳しい方が書いてらっしゃる「南米競馬情報局」を見て頂きたいんですが、一応こっちでも解説しときます。
基本はダート競馬なんですが、メインの競馬場は芝コースがある国が多いです。
アルゼンチン
【統括団体】OSAF(Organización Sudamericana de Fomento del Sangre Pura de Carrera、南米競馬機構)
【レース形態】平地(芝・ダート)
【競馬場】サンイシドロ、パレルモ、ラプラタなど
【競走体系】
【三冠】牡…ポージャ・デ・ポトリージョス(芝)、ジョッキークラブ大賞(ダ)、ナシオナル大賞(ダ)
四冠…三冠+カルロス・ペレグリーニ(芝・古馬混合)
【牝馬クラシック】ポージャ・デ・ポトランカス(ダ)、セレクシオン大賞(ダ)、エンリケ・アセバル(ダ)
【名物イベント】エストレージャス大賞(亜版BC・芝)
Estクラシック、ディスタフ、ターフ、マイル、スプリント、ジュベナイル、ジュベナイルフィリーズ、ジュニアスプリント(GIII)
【主なGI(芝)】ラティーノアメリカーノ(ラテンアメリカ大賞典・南米各国持ち回り)
南米競馬の中心地です。
レースはGIカルロス・ペレグリーニ大賞。3歳四冠の最終戦ですが、古馬も走れます。日本でいうナリタブライアンやオルフェーヴルのような、有馬記念制覇で四冠馬、みたいなことなんでしょう。
パレルモ競馬場はゴール後のカメラが横の壁を気にしてビタンッって急に止まるので覚えやすいですね。どうにかならんのかこれ
2着に9馬身差付けて圧勝したヴィレッジキングですが、父の父はエルコンドルパサーの父キングマンボ、母の父はタップダンスシチーの父プレザントタップ。
言うほど日本と変わらないものですね。
それどころか、日本馬ハットトリックの産駒がホアキン・S・デ・アンチョレーナ大賞を勝ってるらしいです。ホアキン・S・デ・アンチョレーナ大賞がどれだけすごいのか分かりませんけど、年の瀬のマイルGIなのですごいんでしょう。声に出して言いたいレース名ですね。
そしてこちらがサトノダイヤモンドの母、マルペンサがGIクリアドーレス大賞を制覇した時のレース映像です。
ダイヤの母ってアルゼンチンの馬だったの!?と驚きの方もいるかもしれませんが、実は母が南米血統の日本馬はかなり多いです。ペルーサ、ディアデラノビア、ダノンファンタジー、レシステンシア、サトノレイナス、ヒシイグアスなどなど。
マルペンサは芝でもGIコパ・デ・プラタ(銀杯)を勝ってます。これが輸入の決定打になったのかも。
アルゼンチン唯一の芝コースが高速馬場のため日本競馬と相性がいい&基本的に早熟血統のためクラシックに間に合わせやすい&安く買えるため、日本の社台グループがやたらと牝馬を買っていくんだとか。
南米産馬の子が日本でこれだけ結果を残せてるのは、そもそも南米産馬が強いからに他なりません。インヴァソールという馬がいます。
アルゼンチンで生まれウルグアイ三冠馬になった彼はアメリカに移籍し、BCクラシックを制覇しエクリプス賞(北米版JRA賞)年度代表馬になりました。ウルグアイ三冠も含めGIを9勝。
こんな馬が生まれる土壌があるんだから、マルペンサからサトノダイヤモンドが生まれても何も驚かないですね。
チリ
【レース形態】平地(芝・ダート)
【競馬場】バルパライソ、チリ、サンティアゴなど
【三冠】牡…エル・サンサーヨ(芝)、チリセントレジャー(ダ)、エル・ダービー(芝)
パートI国。こちらも日本ありきで解説します。
動画は14年のGIエルダービー(チリダービー)。勝ち馬ソラリアはカレンブーケドールの母です。
これはダービーです。オークスではありません。
めちゃくちゃ強いですよね。
そりゃ娘も何回もGI勝て…そうになりますよね。
なおソラリアはチリの年度代表馬だそうです。
これもうチリのウオッカでしょ。
動画は2020年のチリ競馬場大賞。勝ち馬ロベリウスはシーキングザダイヤ産駒。
シーキングザダイヤとはGI馬シーキングザパールの子にしてGI2着を繰り返し最後まで勝てなかった不運の名馬。その産駒が日本の裏側でGI馬になってるんですよ。ドラマですね。
ちなみにシーキングザダイヤ産駒はチリで2度リーディングサイアーに輝いており、インドでも国内GI6勝馬クァサールを出してます。
そして2023年、32年ぶり史上12頭目のチリ三冠馬が誕生しました。
三冠馬フォルティーノの父の父はアンブライドルズソング、母の父はフサイチペガサスと、日本で走ってても全然おかしくない血統。
南米馬は海外にトレードされる事も多く、この馬も恐らくそうなります。例えば、三冠の1戦目を勝ったルックペンは香港移籍しパンフィールドと改名された後、年度代表馬エグザルタントを打ち負かし2ヶ国GI制覇を成し遂げてますし、亜オークス馬ブループライズは米国移籍後BCディスタフを勝ちました。フォルティーノがどこまでやれるか、注目しましょう。
ブラジル
【レース形態】平地(芝)
【競馬場】ガヴェア、シダーヂ・ジャルヂンなど
【三冠】リオデジャネイロ(牡)…リオデジャネイロ州大賞、フランシスコ・エドゥアルド・ヂ・パウラ・マシャド大賞、クルセイ・ド・スル賞(ダービー)
牝…エンヒキ・ポソーロ、ヂアナ大賞(リオ)、ゼリア・ゴンザーガ・ペイショット・ヂ・カストロ
【主なGI】サンパウロ大賞、ブラジル大賞
こちらもパート1国。
ウマ娘の影響でアグネスタキオンが人気ですが、タキオンの現役時代、もう1頭のアグネスもクラシックの有力馬として騒がれていました。その名もアグネスゴールド。しかしスプリングS制覇後に故障引退。
アグネスタキオンは皐月賞で神話になり、引退後も変則二冠馬ディープスカイ、二冠牝馬ダイワスカーレットを輩出し日本のリーディングサイアーに。
一方アグネスゴールドは…
リオデジャネイロ無敗三冠牝馬を輩出し、ブラジルでリーディングサイアーになったのでした…。
ということで動画は無敗三冠牝馬ジャネールモネイの三冠目です。ブラジルはとにかくアグネスゴールド産駒がすごいです。さっきのシーキングザダイヤの比じゃないです。日本でいうディープインパクト産駒レベルで無双してます。
ダービー馬はもちろんGI馬を複数輩出していて、極めつけは…
ブラジル産アグネスゴールド産駒アイヴァー(イバール)がアメリカGI制覇しちゃってます。しかも翌年同GIを同産駒インラブも制覇しちゃうという…
ブラジルの競馬ファンにとっては最高に嬉しいだろうし、日本の競馬ファンにとっても、アメリカの競馬ファンにとっても(サンデーサイレンスの孫なので)嬉しい勝利となりました。
残念ながらゴールドはこの世を去ったのですが、23年2月の最新情報ではロンドンムーンという馬が8戦7勝(2着降着1回)でブラジル牡馬三冠の一冠目を制覇。後継種牡馬としての道と、三冠馬への道が見えてきています。未来は明るいですね。
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